.・oO 4.めえめえと海月の骨

 夏が来て、北の浜辺はハマナスの明るい紫の花で一杯になりました。
「そろそろ、来てるかもしれない」
 その朝、めえめえは思いました。毎年、ハマナスが満開になると、海の中に住む海月たちが浜にお花見に来るのです。めえめえは、朝ご飯のバナナを半分食べると、残りの半分をポケットにねじ込んで、ハマナスの間の小さな路を海に向かって下って行きました。
 朝の光が海をぱりぱり揺らしています。めえめえが波打ち際まで下りて行くと、そこではもう、海月たちが宴会を開いていました。大きい海月も、小さい海月も、透き通った体にほの白く星の模様を浮かび上がらせて歌い、また踊っています。めえめえはもう嬉しくて、嬉しくて、思わず大きな声で叫びました。
「海月の骨に逢ふぞうれしき」
 最後の「き」を言い終らないうちに、翻車魚が口を挟みました。
「海月の、骨、は失礼です」
「えっ、なんで」
 めえめえは、驚いて尻尾をぱたぱたっと動かしたとたん、スープをこぼしてしまいました。
「なんてことするの。床が汚れてスープ臭くなっちゃうでしょ」
 翻車魚は慌てて布巾を取りに行きます。そうです。ここは翻車魚がせっせとお掃除してこのごろとみにきれいになった森のお宅なのです。汚したりしてはいけなかったのです。 「ごめんなさい」
 めえめえは北の国をひとりで旅したときのお話を気持ちよくしていたのに、喜ばれるどころか叱られて、悲しくなって、お靴も履かないでお外に飛び出しました。めへめへめへ。
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