.・oO 1.めえめえの獲物

 森の仔山羊のめえめえは、そのとき大きな獲物を、重そうにずるずる引き摺って歩いていました。あっちへよたよた、こっちへよたよたしているめえめえに、コダマが訊ねました。
「めえめえちゃん、どうしたの、その大きなお魚」
「あっ、これ。良いでしょー、」
「それ、なあに、」
「へへぇ、これはねぇ、翻車魚っていうの」
 この翻車魚は波打ち際に落ちていたのを、えっちらおっちら担いできたのです。何時も我慢の足りないめえめえにしては、大したものです。
「ふーん、変なの。頭しかないみたい」
「うん。とっても変なの」
 コダマは絶えず首をかららきりり廻しながら、次から次から現れては消え、消えては現れして、色々なことを云いました。その聲は広い森に響き渡りますが、そのうち、何処へともなく姿を消すのです。
 めえめえは相変わらずよろめきながら宅を目指しています。
「また可笑しな生物を背負っているねぇ、」
 今度はぶなの木の上から、意地悪そうに山猫が話し掛けてきました。長いしっぽをたらりとめえめえの前に下ろし、ふらふらさせます。
「どうするんだい、そんなもの」
「さて、どうしたもんかねぇ」
 めえめえは何を云われても平気のへいざ。遂に辺りを無視して歌を唄い始めましたよ。
「♪めえめえ山羊さん、なぜ泣くのぉ、コォケコッコの小母さんの、あぁかいお帽子ほぉしいよぉ、黄色いおっくもほぉしいよぉー、」
 此処まで唄って、初めて、めえめえは気が付きました。これは大変哀しい。
「めへへえーっ」
 一咾、叫んだかと思うと、はたと立ち止まり、ぷるるっと翻車魚を振り落として、泣き叫びながら一目散に逃げていきました。
 その後、捨てられた翻車魚はどうなったか、って。そりゃあ、ちゃんとめえめえが拾いに来ましたよ。あれから、めえめえは宅へ帰って、独りで、穴熊の様になって震えてみて、また気が付いたのですもの。そうだ、こういうときに翻車魚を齧ったり、翻車魚の上に座ったりすると良いんだった、とね。
 めでたしめでたし。
←モドル  ↑目次↑  ススム→